初めて君に会ったのは、雨が降る 寒い夜だった。
一番後ろの目立たない場所で、皆から離れて 独り立つ君。
悲しいなら 泣いてしまえばいいのに
僕の親友が残していった 君。
「彼女の笑顔が 一番好きだ。
君は、何があっても、微笑んでいたそうだね。
やがて春になり、桜も散り、毎日が憂鬱な梅雨が来る。
僕には何が出来るだろうか。
悲しいなら 泣いてしまえばいいのに
独りで、必死になって立っている君。
僕にしてあげられるのは、君を独りにしない事。
君はいつまで彼を想うのだろう。
ある日、君が言った。「何故、ここにいるの?」と。
「君が 倒れてしまいそうだから。消えてしまいそうだから・・・」
「私は倒れない。消えない。・・・泣かない。
悲しいなら 泣いてしまえばいいのに
季節はうつろい、色あせてゆく。
ある日 君は、ふと 振り向いた。
細い肩が、かすかに震えていた。
それから君は やっと歩き出す。
全身で泣く君は、それでも涙など流さず、
真っ直ぐに前を見据えていたね。
黒い服に 真っ白なハンカチ。雨に濡れた長い黒髪が印象的で、
細い肩が、かすかに震えていたっけ。
君のまわりだけ、時が止まったように見えた。
雨音で 声など消えてしまうだろうに、
君は涙すら流さなかった。
声をあげて 泣いてしまえばいいのに
君はまるで全てを閉ざすかのように、目を閉じた
何があっても、決して泣く事などなかったそうだね。
悔しくても、苦しくても、
どんなに辛くても、涙は見せなかったそうだね。
彼女の笑顔が、僕に勇気をくれる。
だから、僕は、彼女を泣かせるような事はしない。
決して 泣かせるような事は しない。」
彼の想いに応えるかのように。
でも、今では、笑う事もしなくなった。
涙と一緒に、微笑みも閉ざしてしまった。
まだ君は微笑まず、涙も流さず・・・
毎日、何を想って空を見上げるのだろう。
君のかわりに、空が泣く。
君に、何をしてあげる事が・・・
彼が好きだった、君の笑顔。
僕は一度も見る事が出来ないのだろうか。
声をあげて 泣いてしまえばいいのに
君はまるで全てを閉ざすかのように、目を閉じる
疲れたら、休んでもいいんだよ。
僕は 彼のかわりにはならないだろうけど、
君が倒れてしまわなように、支えてあげるよ。
いつも 君の側にいてあげる事。
それくらいしか、出来ない。
それ以上は、出来ない。
いつまで、泣かず、微笑まずに・・・
僕の想いは、届かないだろうね。
決して、告げる事も 出来ないよね。
「何故あなたは、ここにいるの?」と。
「あなたは、彼ではないわ。彼は、戻らない。
私は・・・・・・誰もいらない。」
君がここに居る。君はこうして、確かに生きている。
僕はそれを、ずっと見届けたい。
君が 居る。その証しとして、君の側に ずっといたい。
彼が 悲しむから。彼を悲しませたくないから。」
「なら、笑って。微笑んで。」
「何を想って笑えばいいの? 微笑む事など、もう・・・・・・」
声をあげて 泣いてしまえばいいのに
君はまるで全てを拒むかのように、目を閉じる
君の時は、まだ 止まったままで、
その瞳には 何も写らないままで、
それでも僕は、君といた。
そして、真っ直ぐに僕を観た。
君の瞳に 初めて僕が写る。
・・・君を そっと 抱きしめる
何があっても、決して泣く事などなかった君の、初めての涙。
「ずっと、ずっと、側にいてくれたね・・・」
君は 初めて 僕に微笑んだ。微笑んでくれた。
時折 遠くを見つめる事はあっても、もう立ち止まる事はなかった。
振り返り、僕に微笑みかける 君。
君の 初めての涙は、君の 最後の涙になった