「少し年上の、可愛い女性が好きだなぁ・・・」
「落ち着いたら、電話するよ。」
出逢ったのは1年前。あなたが私のチームのオブザーバーとして入って来た。
「彼女とか、いないの?」
私が年上だからか、あなたは少しずつ、自分の事を話すようになった。
そのうちに、あなたには新しい彼女ができた。当然、私と会ったり話したりする時間は減っていった。
それから金曜日までは、幸いあなたとは別行動の仕事だった。あなたと目を合わす事も、話す事も
無かった。
「突然、ごめん。・・・・・・家まで送るよ。」
それからは、また、いつもどうり。何事も無かったように仕事をこなしていった。
1年は、あっと言う間に過ぎてしまった。
「落ち着いたら、電話するよ。」
それから しばらく経ったある夜、携帯が鳴った。
・・・・・・・・・・・・とある 愛 の おはなしです。
こんな出だしの とある会話を聞いて。。。。。。。。。。
こんなおはなしは、いかがでしょうか・・・
「・・・連絡、待ってるね。」
そう言って別れた。あなたは、私の知らない遠い所へ 行ってしまった。
・・・いいえ、正確には、帰ってしまった。元々、こっちには1年間の出向で来ていたのだから。
「年も下だし、なんか頼りなさそうなやつ。」
それが、私のあなたに対する第一印象だった。
でも、一緒に仕事をしているうちに、変なやつだけど仕事はできるな と、思うようになって、
気も合ったので、二人で動く事がだんだん多くなっていった。
「いない、いない。
前はいたけど、こっちへの出向が決まった途端に 愛想つかされたよ。
ほら、俺って、仕事人間だからさ。」
「へぇ。でも、仕事人間ってのとは違うと思うよ。
好きなんでしょ? 仕事が。楽しそうにやってるもん。
いい目、してるよ。」
「そうかな。でも、彼女に愛想つかされるような男じゃ、しょうがないよ。」
「あなたの良さが判っていなかったんだよ。きっと。」
「・・・俺に いい所なんて、あるのかなぁ。仕事しかできないし、ボロボロな人生、送ってるもんな。」
別れた彼女の事、親・兄弟の事、子供の頃の辛い思い出、今の仕事の事・・・。
私も いつの間にか、あなたに色々と話すようになっていた。頼るようになっていった。
「おかしいよね。私の方がずっと年上なのに、あなたに頼るなんて・・・。」
「年なんて、関係ないよ。それに、俺もずいぶん支えてもらってる。お互い様さ。」
お互いに、互いが必要になっていた。ずっと一緒にいたい。お互いに、そう思うようになっていた。
でも、好きだけど、愛しているとは思っていなかった。友達以上だけど、それ以上ではない。
そう、思っていた。
ちょっと寂しい気もしたけど、良さそうな子だったから、
「今度は 愛想つかされないようにしなさいよ。がんばってね。」
そう言って、応援してた。心の端っこに、ぽっかりと孔があいてしまった事を、認めようとしないで。
いつもどうりに ふるまっていた。
「来週の金曜日さ、彼女の誕生日なんだ。で、その日、定時で帰ってもいいかなぁ。
・・・・・・海辺のホテル、予約したんだよ。」
その後、私はあなたに何を言ったのか、覚えていない。定時帰宅を許可し、それから・・・それから
どうしたのだろう。
気が付いたら、部屋で独り、泣いていた。静まりかえった部屋に、私のすすり泣く声だけが響いていた。
いつの間にか、好きになっていたんだ。・・・こんなにも。
今頃気付くなんて・・・
金曜の夜、私は一人で残業する事にした。広いオフィスに、私のタイピングの音だけが カチ
カチと響いていた。
・・・突然、携帯が鳴った。
「もしもし・・・俺だけど・・・・・・ちょっと、会えないかな。」
「え? だって、彼女は? どうしたの?」
「・・・・・・下にいるんだけど、出られない?」
急いで片付けて下に降りて見ると、あなたは独り、車で待っていた。
助手席に座るように促され、あなたは車を出す。
しばらくの沈黙。様子から、大体の事は想像できた。私も、あえて、何も言わなかった。
「・・・ふられちゃったよ。やっぱり、駄目だね。俺、仕事人間だから。付き合ってられないってさ。」
「じゃぁ、私にも責任があるね。あなたに仕事をさせているのは、私だから。・・・ごめんね。」
「それは関係無い。俺が好きでやってる事なんだから。
・・・彼女に言われちゃったよ。
『あなたって、たまに会っても主任さんの話ばかりするのね』って。
・・・・・・・・馬鹿だよな。俺。自分の本当の気持ちに、気が付かなかった。」
あなたは、私を抱きしめた・・・強く、そして、優しく。
いつものように二人で動き、いつものように色々な話をした。
時折、寂しくなるのか 私の事を抱きしめる事はあっても、それ以上は 無かった。
あなたは何も言わない。抱きしめるだけ。
ただ、
「こうしていると、とても安らぐ・・・安心できる。」・・・そう 言う。
私はあなたにとって、何なんだろう。あなたは、「好き」とは言わない。「君が必要だ」と言うだけ。
でも・・・それでも、いい。あなたが抱きしめてくれるから、それで、いい。
最後に会った時に、初めてキスをした。最初で、最後の。
あなたは、行ってしまった。
「・・・連絡、待ってるね。」
「向こうの住家の電話番号、これだから・・・いつでも、掛けてきていいよ。」
「携帯の方に掛けても、仕事中は仕事の電話しか取らないもんね。」
「うん。さすが、良く判ってらっしゃる。」
・・・そう言って苦笑いを浮かべるあなたを見送ってから、もう、どれくらい経っただろう。
一週間後に連絡が入り、やっぱり仕事が忙しい事、うちの中はだいぶ片付いた事など、とりとめの
無い話。
「休みの日にでも、電話するよ。」
そう言ったきり。・・・私からは、掛けられない。家にいる時は、寝ている時だと知っているから。
休みの日も、寝ているか、車で何処かに行っているか・・・携帯は切っているのを、知っているから。
そういえば、お互いに「好き」と、はっきり言ってなかったね。
あなたは私を、どう思っていたんだろう。私は何故、あなたに「好き」と言えなかったんだろう。
今からでも、遅く無いかもしれない。でも・・・でも、あなたからの電話は、無い。
もう、いい子を見つけたのかもしれない。もう、彼女がいるかもしれない。それを考えると、駄目。
私からは、電話はできない。・・・・できない。
でも、あなたを嫌いにはなれない。あなたがどういう人か、知っているから。だから・・・
だから、ずっと、ずっと 待ってる。あなたも、私は離れてはいかない事を 知っているから。
「もしもし? 元気にしてる? ・・・今、いいかな。」