山中湖の夕暮れ
落日の 富士は紫紺に色替えて 裳裾紅ひく気高き姿 |
落日の富士は夕日を背に受けて 湖面に樹海の姿おどろし |
刻々と宵闇せまる湖に 遠近(おちこち)灯る漁り火の見ゆ |
新潟で生まれ、新潟で生きてきた母にとって、富士山は幻の山でした。
父の病気(半身不随)もあって、旅行などは夢のことでした。
77歳の父を見送り、寂しさの中にも自分の時間を取り戻した母を、
今度こそ!と、私と姉で念願の「富士山」を見に連れ出したのでした。
11月のキーンと澄み渡った空気の中、三人でとことこ電車の旅。
奇跡に近いような素晴らしい富士山がそこにありました。
何度も行った私でさえ、めくるめくようなキラキラ光る山の稜線でした。
山中湖畔の宿のベランダに出、全面に迫って来るような神聖な富士山を
仰ぎ見ている母の目からこぼれ落ちる涙。
少しは親孝行したかな・・・と思いました。
あくまでも静かな湖畔の宿でした。
*
夕食後、高台にある宿から湖畔まで散歩しました。
木の下駄をカランコロンと引きずりながら、親娘三人で
坂道を歩きながら見たまん丸お月さま。
三人の影が躍りだしました。、
「つんつん月夜だ みな出てこいこいこい!」♪
子供のように興奮して大きな声で歌いながら坂道をカランコロン。
その時の風景をしっかりと覚えていた母は、新潟に帰るなり
こんな絵にしてしまいました。
あの子供のようなはしゃいだ母の姿を思い出す度、
胸が一杯になるわたくしです。