水鶏(くいな)棲みし 沼地もいつか 埋められて 畑広々と 梨の花咲く (ふるさと大郷にて) |
赤きぐみ 取りて含めば 幼日(おさなび)の 稚児髪の日の 淡き郷愁 (ふるさとにて) |
古希すぎし 身に叶わじと 思いしが 今富士仰ぐ 山中湖畔にて (山中湖にて) |
秋深む 富士の裾野に 演習の 炸裂音は 耳を劈く (山中湖にて) |
刻々と 宵闇せまる湖に 遠近(おちこち)灯る 漁り火の見ゆ (山中湖) |
落日の 富士は紫紺に色替えて 裳裾(もすそ)紅ひく 気高き姿 (山中湖にて) |
落日の 富士は夕日を背に受けて 湖面に樹海の 姿おどろし (山中湖にて ) |
から松の はやしに満てる月のぼり 狸ばやしも 聞こゆかに 今宵は (山中湖にて) |
朝月夜 湖畔のやどの窓に寄る わが身に注ぐ 幾条のひかり (山中湖にて) |
松島や 青海原をおちこちと 遊覧船は 岩間ぬいゆく (仙台に旅して) |
その昔 子等の通いし学びやの 夢さがせども 跡形もなし (任地だった仙台で) |
黒鐘(くろがね)の 樫の林は浅みどり 春の息吹を深く吸い込む (八王子にて) |
波の音(と)を ききつつゆけば 浜なすの 赤き花咲く湯の町の午後 (瀬波にて) |
ゆく夏を 惜しみつ波とたわむれて 印す足跡波はまた消す (寺尾浜にて) |
妹とゆく 空の初旅待ちかねて 指折り数う 陸中の旅 (岩手に旅して) |
陸中の 海おだやかに岩間ゆく 遊覧船に海猫の群衆(むれ)くる (岩手にて) |
龍泉洞の 洞穴深く冷気あり 足場を照らす 豆電燈ゆらぐ (岩手にて) |
龍泉洞の 洞穴深く冷気あり 足場を照らす 豆電燈ゆらぐ (岩手にて ) |
春雨に 若葉いろ増す山の湯に 余韻嫋嫋明の鐘なる (出湯) |
客乗せて 遊覧馬車は鈴ならし 汗ばむ子馬蹄山打つ (水上にて) |
母の日は 娘等に招かれ山の湯に おやこの枕 六つならべて (宝川温泉) |
渓流を眼下にみつる山合に 季節はづれの桜花咲く (宝川温泉) |
錦なす 見渡す山に霧立ちて 視界は見えね滝の音のみ (能登の旅) |
能登の海 左に見せる車道添え 霞む若葉の煙る美(かな)しさ (能登の旅) |
聳え立つ 巌ににじむ岩清水 集めて下る清津峡谷 (清津峡にて) |
岩ヶ根の 巌ににじむ岩清水 低きに集む清津峡谷 (清津峡にて) |
山襞に 残雪白き蝦夷富士の 頭上に雲のわき立つを見る (北海道にて) |
命がけ 豊平川を登りくる 鮭の産卵いと哀れなり (北海道に) |
古墳ある 岩ヶ崎浦の断崖に 白く砕けし老松の幹 (瀬波にて) |
古の人の 住居をそのままに 岩ヶ崎浦残照の海 (瀬波にて) |
春雨に 若葉いろ増す山の湯に 余韻嫋嫋明の鐘なる (出湯) |