夕映えの茜のいろを波たたみ 飛び交う鴎金色に染む |
御社(みやしろ)に 幾百歳(いくももとせ)の老桜(うばざくら) 枯れしと見しが返り咲きたり |
御社(みやしろ)の 歳古りまさる桜花 春立ち返り誰ぞ見まほし |
何時の日か 鳥の落せし裏白(うらじろ)の 種の実りてつややかに赤し |
山と積みし 秋の稔りを商える 市の老婆の呼び声高し |
歳古れど なおなつかしき幼日(おさなび)の 赤とんぼ追いし夕映えの丘 |
豊作を 笑顔で語る畑の人 実りし稲を太き手で撫ず |
さざめきも 消えし海辺の砂浜に 「なぎさ」と標すボート伏しおり |
一しきり 篠つく雨も降りやみて 雲切れぎれに青空の見ゆ |
梅が香に 誘われたるかうぐいすの 冴えし一声春は来にけり |
銀杏散り 黄金散らまく道ゆけば あやしき雲の西空に出ず |
降ると見て 俄かに雲の立ちさわぎ 戸惑う人を驟雨追いくる |
老いらくを 顧みる間もあらばこそ 一目散に茂る木の下 |
濡れし身を しばしのかげと立ち寄れば 木の肌温(ぬく)く背中(せな)につたわる |
波の音(と)を 聞きつつここに根を張りて 幾星霜を風雪に耐ゆ |
春まさり 木々に憩える鳥の声 平和の御世はありがたきかな |
あかときの 薄茜さす大空を 真一文字の明烏哉 |
冬越しの肉体(しし)は萎えたり春な来て 陽射しうれしき雪どけの道 |
連なりし 山なみ白し山そわの 雪解(ゆきげ)の水の大河ともなす |
水無月の 夜半(よわ)の嵐に松籟(しょうらい)の ちらまく落ち葉尚も二葉に |
幾何(いくばく)の 淋しさはあれ秋はよし 月にすすきに紅葉またよし |
あかときの大空急ぐ明烏 雛の待つやら真一文字に |
梅雨の間を 野の草花に羽とめて 小さき蝶よ思い切り吸え |
街路樹の 黄葉舞いそめし道端に 大売出しの幟(のぼり)はためく |
枯ればみて 窓辺に秋のかげ深く 虫の声音(こわね)もあわれかぼそし |
ゆく夏を 惜しみつ波とたわむれて 印す足跡波はまた消す |
夏の夜も 未だ宵なるをサイレンの けたたましさは何事かあらん |
輝り返し 肌のほてりも冷めやらず 暮れ泥(なず)みつつ佐渡の彼方に |
荒海の波乗り越えて肌黒し ウィンドサーフィンの若き人々 |
縁日で 亡夫(つま)ともとめし錦鯉 戸を繰る度に口あきてまつ |
雲たれて 波立ちさわぐあら海は テトラポットに白波の散る |
嵐去り 怒涛逆まく日本海 寄せては返す荒海の音 |
浜茶屋に 人影たえし日本海 海たけり渚かむなり |
朽ちてまで 枝振りおしき大木に (つがい)の鳥は命育くむ |
おりおりの 四季を織りなす天然は 神の恵みと何時の世までも |
二葉より 手がけし鉢の朝顔の 水色清(すが)し初咲きの花 |
松桜 若葉萌え立つ公園に 春を奏でる野鳥賑わし |
茜さす 夕やけ雲を雲たたみ 佐渡のかなたに落ちる陽の惜し |
吹きすさむ 夜半の嵐に小鳥等の 憩う塒(ねぐら)は如何にあるらん |
晩秋の 庭の落ち葉をかき寄せて 芋焼きし子も二子の母なる |
鬱蒼と 暗き境内落葉して 社(やしろ)の要(かなめ)金色あらわに |
黒雲に 見えかくれする月影の いでて輝く月の清けさ |
新しき 年に備えて鉢の梅 日向の縁で霧吹きてやる |
新玉の 年のはじめに咲きそめし 馥郁(ふくいく)とかおる鉢の白梅 |
秋の田の 苅田に落穂ついばめる 鷺(さぎ)白々と長き足立つ |
み社(やしろ)の きざはしのぼり見はるかす 越後山脈つらなりて白し |